アメリカ公共政策大学院の授業④:ハーバード流交渉術を徹底解説!


今回もまた、アメリカのブリッジポート大学の公共政策大学院で学んでいる、「国際紛争と交渉」の授業内容についてご紹介します。

前回までの記事は下記の通りですのでご一読ください。

 

アメリカ公共政策大学院の授業①:「文化と開発」

アメリカ公共政策大学院の授業②:ルワンダの虐殺と紛争メカニズム

アメリカ公共政策大学院の授業③:紛争分析のフレームワーク

 

これまでは紛争とその分析手法について掘り下げてお伝えしましたが、今回のメインテーマは次のステップとなる交渉です。

ここでご紹介するのは、ハーバード流交渉術で有名な、「Getting To Yes」(ロジャー フィッシャー・ブルース パットン・ウィリアム ユーリー)です。

今回はこの書籍の内容を解説しながら、ハーバード流と言われる交渉術についてご紹介していきたいと思います。

 

交渉は一般的に、適切な合意に至っているか?効率的に交渉を進めたか?双方の関係性は損なわれていないか?といったことを基準に良しあしを判断されがちです。

そして、自分の立場を中心として、この3つの基準を意識しながら、高圧的になったり融和的になったり、つまり押したり引いたりしながら交渉を進めていく事になるわけですが、実はすでにこれが間違っているのだと本書では指摘されています。

それよりも、まずは次の4つのポイントについて考えてみる必要があります。それは「人」「関心」「選択肢」「基準」です。ではそれぞれを詳しく見て行きましょう。

 

人と問題を分けて考える

第一のポイントは、人と問題を区別すると言うことです。人には感情があり、価値観があり、違ったものの見方、考え方があります。ですから当然、誤解を内包したまま、感情的に交渉を進めてしまうことがあるわけですが、それは正に失敗パターンの典型例です。

本書では、まずは双方がお互いの観点をすり合わせすることを勧めています。そのためには、相手への疑いや批判の思いをいったん脇に置いて、相手の立場に自分を置き変えて考えてみる必要があります。

そうして、双方が相手の立場から物事を考え、議論し、お互いの観点の違いを正確に把握することが交渉の第一歩となるわけです。

その次のステップは、相手を必ず交渉のプロセスに関わらせることです。どんなに合理的で納得がいくような提案をあなたがしたとしても、一方的な提案だと言うことを理由にして、相手から拒絶されることはよくあります。逆に相手の顔を立て、メンツを保つ努力をすることで、相手がOKを出しやすい環境を作ることもできるわけです。

次にやっかいなのが感情です。交渉というのはとてもストレスがたまる行為でもあり、そのストレスゆえに早く結論を出してしまいたくなることが多々あります。ですので、交渉においては相手の感情がいまどういう状態にあるかを理解し、また、お互いが感情をさらけ出せるような場面も持つ必要があります。

そして、コミュニケーションについても気を配る必要があります。言った言わなかったといった水掛け論は交渉の中ではよく起こりますが、そうならないように、相手にちゃんとこちらの意図が伝わっているかどうか、誤解していないかどうかを何度も確認する作業が必要となります。伝えると伝わるを混同しないようにしましょう。

交渉では往々にして、相手が話している最中に、自分が次にどうやって反論するかを考えていることがありますが、それが誤解や早とちりを生む原因かもしれません。アクティブリスニングと言われるように、意識的に集中して相手の言葉に耳を傾ける努力が必要になるのです。

その際には、語る側は精一杯自身の意図を伝える努力をしなくてはいけませんし、聞く側は精一杯相手の意図を理解しようと努力しなくてはいけません。

つまり、交渉している相手ではなく、解決しようとしている問題にフォーカスして交渉する、これが人と問題を分けて考えると言うことなのです。

 

立場ではなく関心事に目を向ける

交渉においては、相手が何に関心があるのかを特定する必要があります。当然その関心事は複数ある場合もあります。

相手が何かの意思決定をしたとき、または何かの提案を拒否したとき、なぜそうしたのかを尋ね、相手の真意を探る必要があるのです。

相手にとっての望ましい解決案を探ると同時に、過去のわだかまりなどを持ち出して議論を停滞させないようにします。本書では、交渉は問題に向き合うときは果敢に、人に向き合うときは優しくあるべきだと主張しています。

ですから、まずは相手の立場に寄り添い、相手の関心事やこだわっている点、相手が欲している利益などをしっかり把握したうえで、次に自分のことも理解してもらうよう相手に依頼することが、交渉を上手に進めていくうえでのポイントというわけです。

 

 

選択肢を生み出す

交渉が失敗する典型として挙げられるのが、安易な決めつけ、少ない選択肢、Win-Loseの交渉、そして責任転嫁です。

特に、選択肢が少ないと交渉の幅も狭くなり、相手が交渉に臨むモチベーションを奪ってしまいます。

ではどのように選択肢を増やすかですが、古典的ではありますが、お互いにブレインストーミングをしてみると言う方法があります。

その際には、出てきて提案は必ずしも意思決定ではないことを認識し、固くならず自由な発想で行うことが大切です。

次に、発想を自由にして交渉の選択肢を広げて考えてみることもできます。例えば1万円~3万円の間で交渉していたことを、5000円とか10万円など、想定外の金額でシュミレーションしてみたり、1ヶ月の期間で依頼しようとしている業務を、1日や1年などに変えて考えてみるわけです。

ここでのポイントは、現実的に可能かどうかを先に考えるのではなく、いったんとにかく選択肢を広げてから考えるという点です。

その他の方法としては、共通の利益を探すことがあげられます。Win-Winの結論に至る選択肢が見つかれば、交渉はとてもスムーズに進みます。

また、相手が合意しやすいように話を持っていく方法も有効です。相手が最も欲している交渉材料があり、こちらが許容できる範囲であれば、相手にそれを差し出してしまうというわけです。一見こちらが損をしているようにも見えますが、今後の交渉を円滑に進める上で有効に働く場合もあります。

 

客観的な基準を活用する

交渉がなかなか合意に至らない場合は、今回の交渉を他の客観的な基準と照らし合わせて考えてみることも効果的です。

例えば、過去の前例であるとか、相手企業のポリシーや社則、何かの統計を活用することも考えられます。

これらを活用することはとても説得力があり、相手も合意しやすいというメリットもあります。例えば、価格交渉をしている際に、相手が提示した価格の計算方法が一般的な方法とずれていれば、それを示すことで金額を変更できるかもしれません。

ただし、こういった客観的な基準を用いて交渉を行うと、自身の主張を正当化しやすい分、概して高圧的になりやすいので注意が必要です。

 

BATNAで不利な交渉に立ち向かう

このように、交渉を進めていくうえではいろいろな方法があるわけですが、これまでご紹介した方法はたいてい、対等な立場での交渉を前提としています。

では、もし相手が強い権力や権限を持っており、自分が弱い立場だった場合は、どのように交渉を進めることができるのでしょうか?

例えば会社において、あなたが年収300万円で働いていたとします。あなたは成績が良く、自分の仕事に見合った給料は400万円だと考え、会社と交渉したとします。

この際、会社とあなたとの関係は明らかに上下関係であり、あなたは弱い立場にいます。会社は給料を上げてくれないかもしれないし、上げてくれても大した金額ではないかもしれません。

交渉する際には、誰でも必ず譲歩できる最低ラインを設定して交渉に臨みます。例えば、目標は100万円の年収アップだが、最低50万円アップしてくれたらOKを出そうと決めて交渉を開始するなどです。

しかし、会社が少ししか、または全く年収を上げてくれずに交渉が決裂したらどうしたらいいのでしょうか?この場合、あなたは自分の望みを全くかなえられず、不満を抱えたまま仕事を続けるしかないのでしょうか?

そこで登場するのが、最も望ましい代替案(Best Alternative To a Negotiated Agreement)、BATNAです。つまり、交渉決裂時に自分が取ることができる、最も最適な代替案のことです。

今回のケースで言えば、あなたにとってのBATNAとしてまず考えられるのは、転職です。自分の中に転職への自信やある程度のあてがあるのであれば、「受け入れてもらえなければ辞めます」と、退職を切り札にして交渉することも可能です。

または、努力してもしなくても給料が変わらないような職場であれば、これまで仕事に向けていた時間を減らし、早々に帰宅して自宅で副業などを始めるというのもBATNAになるかもしれません。

このように、BATNAをもって交渉に臨むと、心に余裕が生まれると同時に、交渉を自分側に有利に運ぶことも可能となります。

さらに、可能であれば相手側のBATNAも把握し、どこまで譲歩を引き出せるかを分かった土台の上で交渉を開始するというのも有効な方法です。そうすることで、お互いが満足のいく着地点に早い段階で到達することが可能になるのです。

 

今回は、ハーバード流交渉術の中身について解説しました。次回も引き続き、交渉術についてご紹介したいと思います。

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