アメリカ公共政策大学院の授業③:紛争分析のフレームワーク


今回も引き続き、私がアメリカのブリッジポート大学の公共政策大学院で学んでいる、「国際紛争と交渉」の授業内容をご紹介いたします。

これまでの授業紹介の記事は下記の通りですので、ご一読いただければ幸いです。

 

アメリカ公共政策大学院の授業①:「文化と開発」

アメリカ公共政策大学院の授業②:ルワンダの虐殺と紛争メカニズム

 

ではさっそく本題に入っていきましょう。今回は紛争分析の手法・フレームワークについてご紹介します。

個々の紛争を理解するうえで、最初にすべき5つの質問があります。

 

1.当事者は誰ですか?

2.根本原因は何ですか?

3.問題点の規模とレベルは何ですか?

4.当事者間の力関係と使えるリソースはどうなっていますか?

5.当事者間の歴史的な関係性はどうなっていますか?

 

これら5つの質問に対する答えを導き出すだけで、紛争の全体像を正確に把握し、適切な打開策を検討できるようになります。

ではそれぞれを詳しく見て行きましょう。

 

1.当事者(Actors)

当事者としてまず最初に定義されるべきは、主要当事者(Primary Actors)です。主要当事者は紛争に直接巻き込まれており、また紛争自体を起こしています。ルワンダの例で言えば、フツ族の政権とその配下の兵士、そしてツチ族の武装勢力があげられます。

しかし、実際の紛争には主要当事者以外にも、その紛争に大きな影響力をもつ存在がいて、それらは二次的当事者(Secondary Actors)と呼ばれます。ルワンダの例では、ツチ族に対する攻撃を煽ったラジオ放送局などがこれに該当します。このように、二次的当事者は自身が戦闘を行うわけではありませんが、紛争発生に大きな役割を果たした人物や組織をさします。

さらに紛争には、その紛争によって政治的・経済的に影響を受けたり、またはその紛争に関心を示す組織や国もあります。ルワンダの場合で言えば、隣国のウガンダやタンザニアであったり、国連やアメリカ、ベルギーなどがそれに当たります。

 

2.根本原因(Root Causes)

紛争の原因を当事者たちに尋ねると、例えば大統領が殺されたからとか、相手が違法行為をしているとかいったことが主張されるかもしれません。しかし、それはあくまでも表面的な原因、または紛争の引き金でしかない可能性があります。実は、根本原因は当事者本人も正確に認識していない場合があるのです。

例えばルワンダの場合、根本原因は何かといえば、それはルワンダという土地・故郷の奪い合いだと言うことになります。そして、そこから派生する、ツチ族に故郷を奪われるかもしれないというフツ族側の恐怖、または、かつてフツ族に追い出された故郷に戻れないかもしれないといった、ツチ族側の恐怖心がエスカレートし、双方に疑心暗鬼を生み出したことも根本原因と言えます。

当事者が求めているニーズや、逃れようとしている恐怖心は、もしも紛争を国連やアメリカなどの第三者の軍事力を使って止めたとしても、火種として残り続けることとなり、またいつか次の紛争の原因として再燃してしまいます。

また、往々にして権力者は、国民のそういった恐怖心を利用して政権維持を図ります。つまり、民族主義やナショナリズムを強く打ち出し、多民族やグループを排除する政策をすることで人気を維持するわけですが、結果さらなる人種差別や敵対感情が煽られてしまうわけです。

 

3.問題点の規模とレベル(Issues, Scope and Stage)

ここでいう問題点とは、先の根本原因が現在どのような問題を引き起こしているのか、といったことになります。根本原因は基本的には変わりませんが、問題点はその時期に応じて規模やレベルが変わります

紛争状態になっている場合もありますし、平和協定を結んで落ち着いていると言った場合もあります。もちろん、平和協定が履行されず、結果としてさらに緊張が高まっているかもしれません。

紛争の分析者は、先の紛争曲線を活用しながら、現在の紛争が正確にどのレベルに位置しているかを把握しなくてはいけません。

 

4.力、リソース、関係(Power, Resources and Relationships)

ここでは、双方の力関係と、活用できるリソースについて分析します。力関係とは、軍事力の比較だけでなく、対立するグループのリーダー同士の関係も含みます。

リソースとは、例えばアメリカと強いパイプがあるとか、よく訓練された軍隊を保有しているとか言ったことです。

それぞれが、相手に勝つためにどのような手を打つことができ、またどこに助けを求めることができるのかを分析します。

 

5.平和構築の歴史(History of Peacemaking Efforts)

実は、紛争地において平和構築をする際に重要なことの一つに、それ以前までに取り組んできた平和構築活動に対する分析があります。紛争の火種が生まれてから今日に至るまで、場合によっては数十年の時間が経過しており、それまでに何度か平和構築が試みられてきた場合があるためです。

そして、なぜかつての平和構築のための努力は成功・あるいは失敗したのか?失敗したのであればそこに傾向性はないのか?といったことを分析し、同じ過ちを繰り返さない、または違ったアプローチを試みるなどの提案につなげていきます。

また、かつて双方が平和裏に共存していた時期があったとしたら、何がその状態を変えてしまったのか?また元の状態に戻れるのか?についても検討していく必要があるわけです。

 

このように、紛争分析はある一定のフレームワークに落とし込んで考えることで、全体像が的確に把握しやすくなります。実際の授業では、現実に起こっている様々な紛争をこのフレームワークに落とし込むことで、何が起こっているのかをより深く、正確に把握することに努めます。ちなみに私は、ロシアとウクライナの関係について分析してみようと思っています。

 

個人の人間関係に当てはめて考えてみる

余談ですが、前回の紛争曲線と今回の紛争分析のフレームワークは、プライベートの人間関係にも適用させることができます。

例えば、夫が何気なく言った一言で妻が怒り出す、しかし夫はなぜ妻がそんなにも起こっているのか分からない、といったことは、どの家庭でもよくある話ではないでしょうか。

しかしここで夫が、単純に今自分が言ったことが原因だと思ってしまうと、このすれ違いは永遠に解決しない可能性があります。自分が言った一言は単に争いの引き金に過ぎず、妻の中にはもっと心の奥底に長年たまったストレスや、夫に対する不信が眠っている可能性があるかもしれないからです。

しかし、ここで難しいのは、妻自身もその根本原因を認識していない可能性があることです。また、子どもが二次的当事者になっている可能性も否定できません。そうなるといくら話し合っても空中戦となり、最後はすっきりしないまま物別れに終わってしまいます。

ですから、まずは相手の言葉尻にとらわれることなく、冷静に時間をかけて、争いの根本原因を特定していく作業が必要となります。また、これまで何度か喧嘩をしたり仲直りした経緯があるとすれば、それを思い出してどのように関係を修復していくのがベストかを、探ってみる必要もあるでしょう。

何よりも、紛争予防の観点から、争いが始まってからではなく、良き関係性が築かれている段階から相手を気にかけ、小さな火種をその都度小さいうちに消していく作業が大切というわけです。

世界大戦のような戦争、民族間の紛争から、個人的な人間関係に至るまで、そのメカニズムや分析手法は、基本的には同じだと言うことが分かっていただけたのではないでしょうか。

もし今皆さんにとって気になる人間関係があれば、前回と今回の記事をご自身のケースに当てはめて、分析してみられることをお勧めします。

では紛争についてはいったんこれくらいにして、今度は交渉についてご紹介したいと思います。

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